今はとても良い時代になった。皆が簡単に情報を手に入れられるし、いちいち外出しなくても買い物が出来るし、普通なら絶対に関わりを持てない人とも繋がれるようになった。

それはひとえにインターネットが広く一般的になったことによる効果だ。

一昔前はインターネットはパソコンやネットワークに詳しい一部の人のもので、普通に暮らす一般人にはなかなかハードルの高いものだった。

しかし今は皆がスマートフォンを持ち、SNS等や掲示板なども簡単に利用できるようになり、自分を発信することが容易になった。

誰でも芸能人ばりに有名になれるチャンスがあるというのは、素晴らしいことだと思う。

……、もっとも、それは高校生である僕にとってあまり関係の無いことだ。

いや確かに、SNSのお陰で簡単に友人と遊ぶ予定を組めたり、会話したりすることが出来るようになったが、僕が本当に良いと思ったのはそこではなかった。

それはゲーム、そうスマホゲームだ。

小中学生の頃はゲームと言えばゲーム機を用いたものだった。

当然、ハードとソフトを揃えようと思えば、当時の小遣い事情ではとんでもないお金が必要となる。

月1000円の小遣いをもらえるとすれば、種類にもよるが、ゲーム機本体なら年単位、ソフトでも最低3ヵ月から半年ためる必要がある。

よって当時の僕にとっては、ゲームとは年1の誕生日やクリスマスプレゼントとしてもらうか、お金を貯めて年数回購入できるかという希少なもので、毎回買ってもらうときや自分で買うときは、それはそれは吟味に吟味を重ねて選んでいた。

そしていざ買ってみたら大して面白く無く、がっくりという経験も少なくなかった。

しかし今は違う。スマホゲームはほとんどが基本プレイ無料だ。試してみて、楽しくなければすぐアンインストールすれば良い。

そうやって色々やっているうちに、僕は素晴らしいゲームに巡り会うことが出来た。

そのゲームは日本では知らぬ人はいないとまで言われたゲームで、高校でもクラスメイトの殆どがプレイしていた。

基本的に流行に乗らない部類であった自分も、プレイしていく内にのめり込んでいった。

スマホを購入する際に家族と交わした、操作時間の制限等の約束も、半月もすれば簡単に破ってしまっていた。

プレイを始めて半年、ゲーム繋がりで友達も増え、家族との約束もすっかり忘れていた頃。

ゲームのあるステージで僕は、一週間近く躓いていた。

そこは今までとは違い、ボスはもちろん道中の敵もかなり強くなっており、今の自分のキャラやプレイヤースキルではどうしようもなくなっていた。

攻略サイトや、解説動画などをみて必死に勉強したが、何度挑戦しても、ほとんどボスにすらたどり着けない状況が続いていた。

そんなときだった。ある告知が運営から自分達にもたらされた。

それは、ある強力なスキルを持ったキャラのガチャ排出率を、期間限定で大幅に上げるというものだった。

僕は震えた。このキャラさえいれば、今の状況から脱出できる。そう思った僕は、必死にガチャを回すためのアイテムを集めた。時間は限られている。僕は勉強時間や寝る間を惜しんで、アイテム収集に勤しんだ。

そして、排出率アップ終了前日。ぼくはどうにか30回分回せるだけのアイテムを揃え、ガチャのページを開いていた。

神様、どうかお願いします。そう願いながら僕はガチャを回すボタンをゆっくりと押した。

--結果は無惨なものであった。狙いのキャラはおろか、大したことの無い雑魚キャラしか出てこなかった。

僕は絶望した。あと二日。どう頑張ったってもう一回回せるだけのアイテムを集められない。それに気力も体力も使い果たした。また明日からクリアしようの無いステージを延々回し続けなければならないのか……、そう思ったとき、ふとひとつの方法を思い付いた。

が、すぐに首を横にふる。無理だ。自分はバイトをしていない。月2000円のお小遣いだけだ。それも友達と遊びに行ったり、買い物をしたりするとすぐに無くなる。

お年玉も、あるゲームハードを買うのに使ってしまった。今はほとんど遊んでないのでなんで買ってしまったのかと後悔した。

お金はない。無理だ。諦めよう。しかし、頭でそう何度も自分に言い聞かせているのにどうしても諦められなかった。

そこに、甘い囁き、言うなれば悪魔の声が聞こえた。自分は一度は否定し拒絶した。そんなことをしてはいけない。そんなことは出来ない。

だが、悪魔は、僕のそんな心を嘲笑うかのように囁いた。

「そんなもの、ばれなければなんの問題もない。」

その後僕は、欲しかったキャラを手にいれ、その難関ステージを攻略した。

その後僕は、タガが外れてしまったのだと思う。ステージにつまる度に、「ちょっとだけ、ばれなければ問題ない、いや絶対ばれない。」と自分に言い訳をしてそれをやり続けた。

罪悪感は、数字をいれボタンを押す度に薄れていき、逆に表示される0の数は増え続けていった。

そんなことをし続けていたある日。普段通りに家に帰ると、普段は絶対にある親からのお帰りの声がなかった。

鍵は空いていたのでいる筈なのだが……、そう思いながらリビングに入ると、親は二人とも机のそばに立っていて、その上におかれている数枚の紙を神妙な面持ちでみていた。

と、こちらに気づいた母が、なにも言わずその紙を持って、音もなく近づき、紙を渡してきた。

僕は訳もわからずその紙を受けとる。ふと、父の方を見てみると、腕を組んで怖い顔でこちらを見ていた。

僕は恐る恐る紙を見る。クレジットカードの利用明細だった。そこには親がよく使うスーパーマーケットや、コンビニ、ガソリンスタンド等の名前が印刷されていた。

それは全く問題ない。問題は、その店の2、3倍の量書かれているゲームのタイトルだった。

僕は無心で、そこにある金額を数え足していってみた。

果たして、その額は一体お小遣い何ヵ月、いや何年分になるのだろうか。